【KGマガジン】ライフスタイルを生むデザイン

先端尖ってなくてもいいんだ…エンタープライズ号に学んだ、先入観をなくすことの大切さ

KGモーターズの小型モビリティロボット「mibot」開発プロジェクトの裏側を追う独自メディア【KGマガジン】。本記事を読んでくれているアナタはきっとミボットに興味があるのだろう。すでに多くの人から興味・関心を集めるミボットである。皆を惹きつける、一番の要素は何だろうと考えれば、思いつくのはデザインだ。自分が購入する側の立場だったらと考えれば、価格や性能よりもまず見た目。そんな思いからミボットのデザインを担当するオーサン(仮名)に話を聞いてみた。

mibot開発プロジェクトには多くのメンバーが参加しているが、その中には本業の傍らKGモーターズのビジョンに共感し、副業として参加するメンバーも多い。mibotのデザインを担当するオーサンもその一人。国産自動車メーカー在籍時にはスポーツセダンやファミリーカーなど量産車やモーターショーに出展するショーカーを手掛けた実績を持つカーデザイナーで国内だけでなく海外からの依頼を多く、常に複数の案件を抱える人気デザイナーである。一方で最近はクルマだけに留まらず、仕事領域は拡大しているようで、そのあたりの話も実に興味深い。

オーサン:基本的にはカーデザイナーで、仕事としては9割方が乗り物です。飛行機と船以外はほぼ手掛けてきたので、言うなればタイヤがついた“車輪系”ですね。でも最近は自動車に限らず、電動スクーターから重機まで幅広いジャンルの依頼も来るようになっています。

案件に取り組む際はどんなコトを考えながらデザインを考えるのですか?

オーサン:クルマで例えるなら「買う人になりきる」ですよね。そのクルマに乗ってどんな場所に出掛けたいと思うかを考える。自分自身の趣向としては高級車にあまり興味はないけれど、どんなクルマだったら買うかな、どういう使い方だったらテンションが上がるのか、買う側の人間に立場を置き換えて考えてみますね。あとは実際にユーザーが行きそうなお店とか、スポットに実際に行ってみる。完全になりきることはできないかも知れないけど、体験することはできる訳だから。

例えば大型重機など、存在自体が身近ではないモノを制作する場合は?

オーサン:大きな乗り物のイメージから想像を膨らませます。例えば「これがロボットだとしたら…」と。パイロットになった気分でどんなモノなら乗りたいと思えるか?を考える。あくまでもアイデアを膨らませるキッカケとして間接的にガンダムのイメージを取り込んでみるとかはありますよ。といっても、僕自身はあんまりガンダム観てなかったんですけどね(笑)。どちらかと言えば『宇宙戦艦ヤマト』。松本零士さんの作品が好きだったので『宇宙海賊キャプテンハーロック』とか男臭いストーリーの作品のほうが好きでしたね。

幼少期に観ていたアニメ作品が今の仕事に活きている部分はありますか?

オーサン:子供の頃、友達はアニメならガンダム、映画ならスター・ウォーズが人気。でも僕はヤマトと『スター・トレック』に夢中でしたね。作品に登場するメカも好きだけど、そのストーリーに入り込んで楽しむタイプだったので…そういう意味では使う人になりきってデザインを考えるというやり方はあの頃から身に付いていたのかも知れません(笑)

あと僕は、先入観に囚われていると新しい発想は生まれないと考えているので、デザイン作業においては一旦、黄金比とかセオリーというものを崩して考えます。その「先入観をなくす」という習慣は、スター・トレックの宇宙船を見た時に学びましたね。それまで宇宙船と言えば、先端が尖った流線型で…という先入観に囚われていたけどエンタープライズ号(劇中に登場する宇宙船)の丸くて、棒がついているだけのような形を見せられた時に衝撃を受けたんですよね。「先端尖ってなくていいんだぁ」って(笑)。それでいて、その形にはきちんと裏付けがあってストーリーを追いかけていくと、なるほどな!と思わせてくれるんですよ。

「前後対称デザイン」は両刃の剣!?
“クルマっぽくない”ことで新たなトレンドを生む存在に。

「使う人になりきる」「先入観をなくす」。自分なりの極意を活かしてデザイン制作に取り組むなかで、小型モビリティロボットというKGモーターズからの依頼に対して、どのようなアプローチで挑んだのかを聞いてみようと思う。まずはKGモーターズ(くっすん)とはどういう繋がりでデザインを請け負うことに?

オーサン:くっすんがT-BOX(mibotの前身モデル)を作っているのをユーチューブで知って、オートサロンに出展されたのを見に行ったのがキッカケですね。オートサロンの現場ではくっすんと直接会うことは出来なかったけれど、後日連絡をもらって話を聞いてみればくっすんも以前から僕の事を知っていてくれたらしいです。その後、改めてmibot開発プロジェクトでの車体デザインを依頼されたという流れですね。

前後対称というデザインコンセプトはオーサンからの提案ですか?

オーサン:いえ。依頼を受けた時点で、すでにくっすんのなかでテーマがあって絵(ラフ)も作られていました。ただ正直に言えば僕のなかには「前後対称デザインのクルマ」は面白くないという思いがあって。過去に何度か取り組んだ経験もあるんですが難易度が高くて、諦めたような事もあったんです。だから、これは難題だなと思った。でも、コストを抑制する意図だったり、前後対称というキーワードに対するくっすんのこだわりは物凄く強い。その思いを共有する内にその期待に応えたい、デザイン的に成立させたいという一心で取り組んだ結果、意外と面白い、想像以上に納得のいく形になったと思いますね。

懐かしさを感じさせるレトロっぽさもデザイン的な特徴かと思いますが、一方でクルマっぽくない雰囲気もありますね。

オーサン:70〜80年代のプロダクトに影響受けている要素は強いので、ポラロイドカメラをモチーフとして取り入れようと考えたのは僕のアイデアです。ボディ色のメインカラーに黄色を使っているのも、80年代の元気が感じられるビタミンカラーを意識していて、当時の時代背景を感じさせる、愛くるしさと勢いがある感じも重要な要素ですね。それも含めて“クルマなんだけど、クルマっぽくない感じに仕上げたい”という点はくっすんとも考えは一致していました。

mibotは“クルマっぽくない”をテーマにデザインした、と?

オーサン:僕が若い頃に初代ウォークマンが発売された時、まだ当時の僕らに外に持ち出す音楽がなかったんですよ。好きなアーティストの楽曲をカセットテープで探すか、レコードからダビングするしかない。でも皆、ローラースケートを履いてヘッドホンをして街を歩く、それがカッコよくて。その行為がしたくてウォークマンを買ってもらった。だから当初はヘッドホンしているけど皆、音楽なんて聞いてなかったんですよ(笑) そこから本当に“外で音楽を聞く”という文化が成熟してきた。その過程を見てきたから、mibotもそんな、新しい文化を生み出す存在にしたい。最初からクルマ(移動手段)と思われるのではなくて、「何か面白そうだな、乗ってみたいな」とまず興味を持ってもらうことがワクワクすることに繋がると思うので、そう思わせる要素として前後対称デザインっていうのも効いてくるし、くっすんの差配というか、目の付けどころは正しいのだと思う。

最後に、デザイナー目線でのmibotの見所って何ですか?

オーサン:クルマっぽくないをテーマにデザインしながら…きちんとクルマになっているとこですね。前後対称でガラスも平面で動きを感じられない、ヘタすると置物みたいになりかねない。でも、その“動きそうにないものがちゃんと動く”と感じてもらうために、タイヤの配置場所を工夫したり、クルマとして成立させるという点はかなり吟味しましたね。オモチャっぽさや可愛らしさを残しつつ、でもプロダクトとしてはクルマなので。クルマ好きが見た時に不安や違和感を感じないようにクルマらしさをきちんと残せているというのが、カーデザイナーならではですよ(笑)

 

取材・編集担当/野本和磨(nomo.chant.)
元「デイトナ」副編集長。デイトナ誌面でKGモーターズの前身“くっすんガレージ”の活動を紹介してきた経験を元に「mibot」開発プロジェクトを紹介する案内役。KGマガジンの執筆とともに任されているmibotの車両展示イベントがいよいよ7月5日からスタート。準備や手配に追われながらも、内心ひさしぶりの広島出張で「広島つけ麺」を食べることで頭がいっぱい。こんなこと日々忙しい他のプロジェクトメンバーたちには口が裂けても言えない。