【KGマガジン】原付ミニカーで衝突試験に挑むワケ

え!? 衝突試験やるの!? 難易度が高いからこそのチャレンジを楽しんでいる

KGモーターズの小型モビリティロボット「mibot」開発プロジェクトの裏側を追う独自メディア【KGマガジン】。その記事制作を任されている私、野本が今月のテーマとして取り上げるのは、KGモーターズのユーチューブで公開され、反響を呼んだ動画『【衝撃】次世代ミニカー衝突試験に密着!』について。普段あまり目にする機会のない衝突試験の様子が、動画の中で詳しくレポートされているので、ぜひ御覧頂きたいのだが今回の記事では「なぜKGモーターズは衝突試験を行うのか?」について、記事にしてみたいと思う。


(画像は ユーチューブチャンネル【KG Motors】くっすんガレージ モーターズ より/以下同)

 

まず大前提として自動車と異なり、原付ミニカー規格で新たなモビリティを製造するうえで衝突試験の認証基準はない。つまり検査結果がどうであれ、製品化に際して何ら制約もないのである。しかし、KGモーターズ代表の楠一成(くっすん)は本プロジェクト立ち上げ当初から衝突試験の実施を決めていたという。

―くっすん:安全性を担保するという意味で「それだけは譲れない」というレベルで、最初から決めていましたね。でも車体開発を担う人からすれば衝突基準がないことがミニカー規格で作る最大のメリットともいえるので最初に宣言したときにはみんな「なんでわざわざやるの?」という思いはあったはず(笑) ただ僕としては何よりも優先したいのが安全性。これまで小型モビリティが社会に普及してこなかった理由に、安全性に対する不安があったと考えていて、そこにmibotの開発に対してユーザーから寄せられた要望にも安全性に対する意見が多かったことで、やっぱりその考えは間違ってなかったと確信しましたね。

くっすんはプロジェクトの開始時点で衝突試験を念頭に置いていたというが実際の製作現場においてもその高いハードルは重くのしかかる。仮に衝突安全性を考慮せずに作ることができたなら、車体製作はもっと早く進んでいたはず。一方で、その困難に立ち向かうというチャレンジを楽しんでいるように見えるのも事実なのである。

―くっすん:小型モビリティにおいて衝突安全性を担保するというのが難易度の高いミッションであることはもちろん理解していた。でも厳しい制約がある中でその解決策を探って、ものすごい難易度の高いゲームに挑んでいるような楽しさを感じているのも事実です。ただ、僕自身は楽しんでいるけれど、車体開発リーダーである久保さんをはじめ、外部の協力先企業も含めて現場の技術者の皆さんが物凄く苦労して頑張ってくれていることには感謝しかない。それこそ本当に膨大な回数のシミュレーションを繰り返して、辿り着いたあの衝突試験だったので、試験当日の技術者の方々の緊張感は相当なもの。それが動画の中での久保さんの表情にも現れていますよね。それが、あの動画の一番の見所かもしれない(笑)。

メンバーが固唾を飲んで見守った衝突の瞬間。試験直後の久保さん(車体開発リーダー/写真中)の安堵した表情がプロジェクトの難易度を物語る。

mibotで最優先するのは安心・安全であること
一番の根底におく安全性への追求は終わらない

作り上げた車体に対する自信なのか、動画の中のくっすんはどこか衝突試験を楽しんでいるように見えた。でも当然ながら開発メンバー同様、試験に対しては不安も感じていたようである。無事に試験を終えてみての感想は?

―くっすん:今回の試験では主に2つのポイントについて検証すべき要素があって、1つは衝突の衝撃でも乗車空間が潰れることなく、「生存領域を確保することができるか?」。もう一つは衝突時に「潰れるべき部分がきちんと潰れるか?」。きちんと潰れることで衝撃吸収量を大きくすることができるか、ということ。潰れるところは潰れて衝撃を吸収しつつ、強度のあるフレームで人が乗る空間を守るというのが衝突安全性の基本的な考えで、その点は設計段階でのシミュレーションに近い結果が出せたので方向性が間違っていないという意味でポジティブに捉えてますね。

くっすんが言うように車体開発の面では今回の試験結果はポジティブなものであったようだ。ただ素人目には衝突の瞬間にダミー人形が車内で激しく動く映像を見て、「これは安心だ」と素直に思えない部分もあって…。

―くっすん:結果としてのネガティブな要素で言うと、そのダミー人形(=乗員)の動きが衝突の衝撃で身体が振られてハンドルに顔をぶつけてしまうとか、想定と違った。その点は改善したいと思うので今後の課題として取り組んでいくことになる。潰せるところはしっかり潰しきって、減速Gをもっと緩やかにしつつ衝撃エネルギーの吸収量を確保してあげれば乗員の動きも改善してくると思うので次の試験で重視すべきポイントはそこだな、と思ってますね。

先日、KGモーターズは正式名称とともに「mibot」は小型モビリティロボットであると発表した。“ロボット”と言われれば、単なるモビリティではなく自動運転技術やAI技術などの機能にも期待は高まるが作り手であるくっすんがmibotで一番重視しているのは何?

―くっすん:それは圧倒的に安全性。新しい移動手段として小型モビリティを提案しているのに例えば自分の家族が乗りたい、使いたいと言った時に「危ないから止めておけ」とは言いたくないですから。それは衝突安全性に限らず、出掛けた先でバッテリーに不具合が出て動けなくなるとか、乗り手が不安に感じてしまうような要素は極力無くしたい。安全や安心ということを根底に、何よりも優先するべきだと思っています。“楽しい”とか“ワクワク”っていうのは全部、安全であることが前提での話。

―くっすん:mibotが一人乗りの4輪ミニカーなのも安全性を重視したから。バイクの場合、乗員が剥き出しで2輪だから安定性にも欠ける。その点、4輪なら横転のリスクは減るし、キャビンに覆われることでの安心感を生むことができる。そのメリットこそが原付バイクとの違い。僕自身バイクも好きだし、軽快さとか爽快感とか2輪の魅力が失われることは重々承知の上で、それでも安全性を重視したモビリティを作りたいと思ったんですよね。

小型モビリティというカテゴリーの未来は
mibotの成功にかかっている

衝突試験に挑む理由としては、安全性に対するくっすんの強い思いがあることはよく理解できた。そして最後にくっすんが語ったのはmibotに留まらず、小型モビリティというカテゴリーの成熟に向けての強い決心だった。

―くっすん:自動車が進化するにつれて大型化してきた流れのなかで、この先はmibotをはじめ、小型モビリティが普及していくだろうと考える理由にも安全性が関係している。クルマのスピード領域が上がることに対応して、クラッシャブルゾーンを確保するために車体は大型化してきたけど、同時にADAS(先進運転支援システム)も実用化され、新型車には義務化され始めている。今後、自動運転技術も加わって“ぶつからないクルマ”へと進化すれば、「衝突するリスクがないなら小さくていい」という考えも生まれてくるはず。そもそもコストや扱いやすさの面では小さいほうがメリットも大きいわけで、衝突リスクのない世界では小型モビリティが中心になるのは間違いない。ただ、すべてが“ぶつからないクルマ”に置き換わるにはもう少し時間が必要で、その間に事故が起きて「小さいとやっぱり心配だ」と思われたら、この小型モビリティ普及の波を止めることにもなりかねない。mibotは小型モビリティのベンチマークであると同時に、その安全性の面での基準にならないといけない、それぐらいの覚悟で挑んでます!

近未来的なデザインやモビリティロボットとしての自動運転やAI機能などが注目されがちなmibotではあるけれど、その設計思想の土台にあるのは安全性能。今後、mibotの魅力を紹介したり、聞かれたときには「安心・安全であること」。これが最大の特徴であると答えようと思う。

 

取材・編集担当/野本和磨(nomo.chant.)
元「デイトナ」副編集長。デイトナ誌面でKGモーターズの前身“くっすんガレージ”の活動を紹介してきた経験を元に「mibot」開発プロジェクトを紹介する案内役。写真は6月某日のKGモーターズの取材の合間に参加したサムライジーンズのフットサル大会にて。わずか3分の出場時間なのに、酸素ボトルが手放せない体たらく。mibotを見習って今後の将来を見据えた“持続可能な体力”維持を心掛けようと決心した次第。