小型モビリティロボット「mibot」開発プロジェクトに密着し、表向きなニュースリリースとはちょっと違うKGモーターズ内部で巻き起こるアレコレを紹介する独自メディア【KGマガジン】。今回は、受付開始から約1ヶ月で早くも予約台数1000台を突破したニュースに、プロジェクトメンバーとしては飛び上がるほど嬉しい気持ちとともに、同じく湧き上がる期待と不安についてを記事にしてみたい。
受付開始1ヶ月。予想を遥かに上回る
予約受注に感じる市場からの期待
先日、プレスリリースでも発表したとおり、8月23日に受付開始したmibotの予約はわずか3日間で300台を突破。勢いそのままに約1ヶ月で1000台に達した。開発プロジェクトに関わるメンバーの一人としては素直に嬉しく誇らしい気持ちになれる、間違いなくグッドニュースである。1000台突破から遡ること数日、広島T-SITEではmibot説明会を開催していた。今回はあえて予約者対象として参加者を絞っての開催となったが多くの方から事前申込があり、当日は広島県内だけでなく九州からも参加者が集まるなど大盛況となった。
筆者はKGマガジンの取材の傍ら、予約開始前から広島、東京・二子玉川で試作車両「T0.5」の展示イベントにも携わっており、イベント当日は現場で来場者の対応も行った。どちらの会場でも反響は大きく、特に7月上旬に広島T-SITEで行った展示イベントは市販車に近いカタチでの実車が始めて間近に見られる機会とあって多くのお客様が集まり、KGモーターズの存在を知る人も、そうではない人も広島発のスタートアップ企業が作る小型モビリティロボットに大きな期待を寄せてくれていることは実感できたものである。
ただ、その時点ではまだ予約開始前。興味を持ってくれた方でも「8月から予約受付開始です(納車は2025年秋)」と案内すると、少しトーンダウンする様子も感じられたものである。しかも開発途中でスペックも最終確定ではない。発売までまだ時間も掛かるという状況を考えれば致し方ない。予約が開始されてもすぐに伸びずに、詳細なスペックとともにボディカラーなど細部が確定するたびに少しずつ数が伸びてくれればいいと考えていたのに、この結果、もはや驚き以外の何物でもない。
今になって思えば、予約前に試乗機会がないと心配したのも杞憂に終わった。展示イベント中も「乗ってみたい」という意見は多く、予約するか否かを判断したいというユーザーに向けた試乗会の必要性はプロジェクトメンバー内からも上がっていた。ただ現実的に考えれば公道走行も可能な「T0.5」は現状1台のみ。それも動くとはいえ試作段階であることを考えれば不特定多数のユーザーに安心して乗ってもらう試乗会を実施するのは不可能だった。
仕様確定と工場整備、サービス体制の確立……
課題は山積みだが、このプロジェクトには浪漫がある
不確定要素も多い段階ながら、結果的にこれだけの予約を集められた理由は小型モビリティに対する期待の大きさに他ならない。予約の9割以上が通勤・通学や日々の買い物など個人利用を目的とした個人ユーザー。コストを抑え、コンパクトで乗りやすいという利便性を備えた小型モビリティを求める市場が確かに存在し、その規模も大きいことを実証したといえるだろう。同時に展示イベントでは営業回りや集配達など業務利用で活用したいという法人利用を前提とした質問も数多く、潜在的な小型モビリティ市場に対する期待値はさらに高まるばかりである。
しかし、予約数だけを見れば、順風満帆とも思えるプロジェクトだが、この先待ち構える課題や乗り越えなくてはならない壁など直面する課題を思い浮かべると浮かれてばかりはいられない。先日、知人がmibotプロジェクトを気に留め、1000台突破のニュースを我が事のように喜んでくれた。大手カー用品関連企業で役員を務め、自動車メーカーではないが自社企画での市販車開発・販売企画を主導した経験を持つその人は、KGモーターズにかつての自分を重ね合わせているようだった。
「でも問題はこれから。厳しい言い方をすれば“車体を作るまでは誰でもできる”。それを量産し、流通させていくことがどんなに大変か…。大きな企業でも難しいのだからスタートアップ企業なんて、なおさらだ」
業界の大先輩の言うとおり、KGモーターズがこれから取り組む課題は数多い。現在、候補地の絞り込みも終え、着実に準備が進められている新工場もそのひとつ。組立ラインのための設備投資だけでなく、作業員の人員確保など車体開発と同時進行で進めなくてはいけない案件も山積みだ。さらに車体購入後に、不具合が発生した場合の修理やメンテナンスを担う、外部協業企業とのサービスネットワークの構築も不可欠である。
車体そのものだけでなく、1ヶ月で1000台という需要に見合った生産拠点とmibotを安心して乗ってもらうためのサービス体制の構築と充実。それは小型モビリティ市場の醸成を担うリーディングカンパニーとしてKGモーターズに課せられた使命とも言える。浮かれている暇などないが、プロジェクトメンバーの誰一人として、そんな人間はいない。誰よりもプロジェクトを牽引するくっすん自身が「素直に喜んでいられない自分がいる」と、これからが本番だと気を引き締めている。
前述の知人は最後にこうも言っていた。
「KGモーターズには浪漫がある。今まで見てきた人たちより、ビジネス的な成功を目指すだけじゃなく、とにかくクルマが好きだという情熱が伝わる。だから応援したくなる」
1000台突破はあくまでもひとつの通過点。予約頂いた方だけでなく、mibotや小型モビリティという新しいカテゴリーに期待してくれる人たちのためにもKGモーターズのプロジェクトは歩みを止めることなく前進していくのみである。
9月中旬に広島T-SITEで行われた、mibot説明会の様子。予約申込者を対象に、車体に関する質問をくっすん自らが答えていくトークショー形式のイベントには数多くの参加者が集まった。
取材・編集担当/野本和磨(nomo.chant.)
元「デイトナ」副編集長。デイトナ誌面でKGモーターズの前身“くっすんガレージ”の活動を紹介してきた経験を元に「mibot」開発プロジェクトを紹介する案内役。編集部時代のこと、最初に広島T-SITEで開催した展示イベントは、カスタム軽トラにくっすんガレージのカスタムカブを載せての展示だった。気がつけばあれから何度、搬入と搬出を繰り返したのか。「ドアを勝手に開けるな!」と警備員のおじさんに怒鳴られたのも懐かしい思い出。今や、搬出入作業も経路もバッチリ把握している。さあ次はいつだ!?