小型モビリティロボット「mibot」開発プロジェクトと追う独自メディア【KGマガジン】。今回は広島・呉で行われた市街地での試走テストの様子を密着レポート。街中を実際に走りながら、mibotの魅力を伝えるプロモーション動画を撮影するのが目的だったはずなのに、気づけば幼少時代の思い出話から、来訪の際にはぜひお立ち寄り頂きたいイチオシの絶品カレーまで生まれ育った故郷を案内するドライブ旅行に。寄り道だらけの珍道中をお楽しみあれ!
mibot開発の原点である極細急坂
若き日のくっすん少年が登った「大人への階段」
開発プロジェクトを注意深く見守ってくれている人にとっては、お馴染みのエピソードではあるが、mibotの原点はKGモーターズ代表、楠一成(くっすん)が幼少期に体験した光景にある。
「軽自動車でもすれ違うのがひと苦労な路地。路肩にタイヤを半分落としながら急な坂道を登っていく光景を見て、子どもながらにもこの街には大き過ぎると思った(本人談)」。話を聞きながら、その光景を思い浮かべてみるものの、状況は理解できても狭い路地裏と急な坂道を目の当たりにしたことがない自分にとっては、本心から共感できるわけではなかった。もちろん、くっすんという男が嘘をつけず、上手に話を“盛る”ことができるほど器用でもないことも知っている。ただ実体験の有無が小型モビリティロボットに対する熱量の差を生むのだとしたら、くっすんの原体験を辿り、実際にmibotで走るという試走に同行できるのは願ってもいない機会だった。
くっすんの地元、広島県呉市。言わずと知れた海軍の街。山の斜面に建つ、大正〜昭和期の歴史的な町並みとともに、そこから港を見下ろす構図の写真や映像は見慣れたものであり、坂が多い地形ということも知識としては備えていたつもりである。ただ実際に現地を訪れて目の当たりにしてみると、その道幅の狭さには驚いた。
くっすんが案内してくれた「両城七曲がり」というつづら折りの坂道は、観光名所にも数えられるスポットだがその急傾斜地に住宅を構える地元住民にとっては欠かせない生活道路でもある。mibotでの走行動画を撮影中にも多くのクルマが行き交うが、その多くは軽自動車で確かにすれ違うにも神経を使う道幅だった。余談だが「両城七曲がり」とはいうものの、7回のカーブはない。ただ旧道ルートに全長約2.5m×全幅約1.1mのmibotよりも大きいサイズのクルマで乗り入れた場合には切り返し必須なコーナーがあるので、“七曲り”も決して間違いとは言い切れない。
両城七曲がりだけでも、くっすんの原体験に触れたといえるのだが本当の意味での思い出の地は坂を登った上にある。両城七曲りを登った先にある両城中学校がくっすんの母校。これまた余談だが、くっすんの実家は坂の下にあり、小学校は実家のすぐ近く。進学とともに坂の上にある両城中学校に登校することになり、くっすん少年は文字通り「大人への階段」を毎日登っていたのである。
話を戻して、くっすんの原体験。中学時代のエピソードである。放課後、校舎裏手の道端で友人とお喋りしていると1台の軽自動車が坂道を登ってくる。その道は前述の両城七曲がりよりもさらに狭い。初めて訪れた人なら間違いなく、クルマは通れない歩行者用通路と思うほどの道幅。その道を登ってくる軽自動車にくっすん少年は「ここ通るの!?」と衝撃を受ける。通りたいわけではないが、生活に支障が出るから極細坂道も通ざるを得ないのである。「もっと小さな乗り物があればいいのに…」、くっすん少年がそう思うのも当然である。
そんな呉の極細道路での走行風景はユーチューブで公開中なので、ぜひあわせてご視聴を。
【KG Motors】くっすんガレージ モーターズ 『この道いける?mibotの原点、呉を走ってみた』
海自カレーよりもお気に入り。呉観光情報
くっすんイチオシ「ステーキカレー」は本当に旨い
狭い道路と急な坂道を走るmibotの姿を撮影し、くっすんの小型モビリティに対する思いと、mibotが活躍するシチュエーションを目の当たりにしたことで、ひと仕事終えた満足感を得たところで、昼食タイムを迎えたKGマガジン取材チーム。呉といえば軍港の街として海自カレーが名物のひとつに数えられている。すでに口の中がカレーに染まっていた腹ペコ集団を引き連れて、くっすんが案内してくれたのが呉市中通にある『カリーレストラン 木木(もくもく)』。
平日の昼少し前という絶好のタイミングで店を訪れたことで、数量限定の名物ステーキカレーにありつけるという幸運にも恵まれた。地元出身のくっすんがイチオシするだけあって、観光地メニュー的な派手さはないが旨い。シンプルに旨い。海上自衛隊呉基地所属の艦艇では毎週金曜日の昼食がカレーと決まっているそうだが、木木(もくもく)のカレーなら毎日でもいいな、でも逆に曜日感覚わかんなくなっちゃうなぁと海自カレーにまつわるウンチクに触れながら堪能したのである。
お腹も満たしたところで、次なる訪問先はこれまた呉を代表するスポット、『てつのくじら館』。退役した潜水艦あきしおの巨体が目を引く史料館の前を走り抜ける動画は、全長76.2mとmibotのコンパクトなボディの対比が印象的なワンシーンとなった。その様子もmibotの公式SNSで動画配信されているので、ご覧頂きたい。
ここでくっすんの地元、呉は離れて別のロケ地へと移動したのだがmibot開発思想の原点で狭い路地や急な坂道など日常生活での利便性を体感できたのが収穫。それと同時にグルメの名店や名所巡りにも街中を動き回れるmibotの機敏さに観光ツールとしても大きな可能性を感じた。例えば広島駅に配置されシェアサービスとして利用できたなら、呉まで片道約25km。航続距離100kmのmibotなら呉の名所を巡っても余裕を持って広島駅まで戻れるはず。そして見知らぬ道でも通り抜けられる小さな車体はなんとも心強く頼もしい。
大正〜昭和初期に建てられた歴史的建造物も数多く多く残る呉の町並み。つづら折りの坂道を登った上から斜面住宅地の光景を見下ろす両城七曲がりは呉の町並み観光スポットだが同時に住人にとっては日々の暮らしに欠かせない生活道路でもある。
坂の上に建つ両城中学校(写真は裏門)がくっすんの母校。校舎裏の墓地を抜けて海岸通りまで降りる道路(というか、ほぼ通路)を走れるコンパクトな乗り物の必要性を感じたのが原点。そんな原体験の故郷をmibotで走り、いっときの達成感に浸るくっすんだった。
海自カレーが名物グルメの呉でくっすんのイチオシは「木木(もくもく)」。地元民に愛される老舗カレーレストランでのオススメはステーキ肉がそのまま入った「ビーフステーキカレー」。呉を訪れた際にはぜひ一度、ご賞味あれ。
取材・編集担当/野本和磨(nomo.chant.)
元「デイトナ」副編集長。デイトナ誌面でKGモーターズの前身“くっすんガレージ”の活動を紹介してきた経験を元に「mibot」開発プロジェクトを紹介する案内役。編集部時代から取材や撮影で全国各地へ赴くことは多く、何度も訪れているうちに“ここが私のアナザースカイ”的な思い入れを抱く土地も生まれてくる。すでに広島もそのうちの一つに数えられているのだが、呉はまだまだ回れていないスポットが多い。次来たときには「てつのくじら館」も「大和ミュージアム」もしっかり見てみたい。